2021年02月

親友の漫画家への手紙・昭和三十年代のつげ義春さん

時刻指定とか、郵便局留めとか、こちらではできない事を言ってくる客には腹が立ちます。
それでも、「すみません。できません。」と謝ることにしています。
お客様は神様です。奥様は魔女です。(by東北新社)

【中古】 つげ義春 初期傑作短編集貸本編(上)(文庫版)(3) 講談社漫画文庫/つげ義春(著者) 【中古】afb
【中古】 つげ義春 初期傑作短編集貸本編(上)(文庫版)(3) 講談社漫画文庫/つげ義春(著者) 【中古】afb

つげさんの全集をなんやかんやと言いながら読んでいます。

気になったことがひとつ。昭和三十年代の作品の中で、長編の作品が打ち切りになっていることです。
ボクは漫画週刊誌の時代の連載打ち切りや、無理やりストーリーを終わらせて今週で最終回と言うのはよく見かけました。その時は、ああ作家さんが未熟だったんだなと考えていました。


しかし、貸本漫画時代の長編で上中下、三巻の予定の作品が上巻だけでおしまいと言うのをみてびっくりしました。最終頁は主人公の無念そうなセリフ。(作者が無念と思っているから主人公も当然そういうセリフになる。)
そして、つげさんのお詫びの文章が載っています。

『編集の都合で、これで打ち切りとなります。残念です。またいつか続編を書きます。』
少なくとも十巻までの間に二作品がこう結ばれていました。


つげさんのまじめな性格が良く出ていると思います。それらの二作品は決してつまらない作品ではありませんでした。利益の出にくい漫画と版元が判断したのでしょうね。当時のつげさんのファンも、さぞかし残念だったことでしょう。お客様は神様です。

つげ義春全集を読む・東京出身はアドバンテージ足り得なかったのか?

つげ義春大全 第一巻 白面夜叉 涙の仇討 (KCデラックス) [ つげ 義春 ]
つげ義春大全 第一巻 白面夜叉 涙の仇討 (KCデラックス) [ つげ 義春 ]
講談社の『つげ義春』大全ですが今のところ20巻まで発行されているらしいですが、今後も続巻が出るらしく、つげさんの若い頃からの作品をほとんど網羅させるつもりなのか、最初の10巻はすべて貸本時代の作品ばかりです。

いま、初期作品を5作ほど読んだところです。天才つげさんらしく、この時代の若手作家の中ではうまいと思うのですがボクはちょっと食傷気味です。
つげさんの評論本とか貸本漫画時代の解説本なんかで、つげさんの初期作品としてタイトルと内容だけは紹介されているような作品が実際に読めると喜んだのですが同じ傾向の作品が続くとそういう気になります。

今から読むのがイヨマンテ(熊祭り)と言う作品です。さすがつげさん。デビュー間もなくから、人種問題、差別問題についての異色作品かと思いきや、本人の解説を先に読みますと、つげさんは、この作品について全く記憶がないそうです。
貸本時代と言うのは金を稼ぐこと、生活のために描くことが大事で、出版社にボツにされると金にならず生活ができないから、とにかく売れるもの、話題のもの、新聞などから事件や話題を仕入れて盲目的にそれらを題材に漫画に仕立て直していたということです。

東京出身の漫画家と言うのは本宮先生についてよく言われるように帰る所がそこにあり、出身地東京と言うだけでアドバンテイジに成り得たというのは迷信だったのか。
つげさんの弟さんも漫画家だったらしいけど、ボクは知りませんし、つげさん自身の住まいはメッキ工場の廃液垂れ流しの目黒川沿いのくさいアパートで漫画を描いてたというし、なかなか目が出ず苦労したみたいですね。今の目黒川と言うと桜の名所で芸能人の住まいが多く若い人のたまり場みたいなイメージですが。
脱線するけど、豊洲も今の高級マンションが林立し、上級国民たちの世界みたいな雰囲気からかけ離れた時代を年寄りから聞いたことがあります。これも昭和30代に岡山から豊洲に嫁いだ老婦人の話。

その人は何十年ぶりかに小学校の同窓会に岡山に戻り、再び東京行ののぞみで岡山からボクの隣の席になりました。自分が嫁いだころの豊洲は雨が降ると泥水で水浸し。これなら岡山の農村の方がはるかにましと泣いて暮らしたが、開発が進み、マンションが建ち、自宅も地価が上がり、自分もやっとセレブの仲間入りできたと言って自分の現在の住まいの付近の写真を見せてくれました。

その写真を同窓会でみんなに見せてさんざん羨ましがられたと、とても嬉しそうに話してくれました。しかし、ほんとの自分は今でも岡山の田舎者という本音が滲み出るような表情をして寂しそうに挨拶をして東京駅のホームで別れました。


すみません。また、まとまらなくなった。

親友の漫画家への手紙・水木しげるのプレデビュー作『赤電話』

水木しげるのプレデビュー作『赤電話』について
貸本漫画集(4)恐怖の遊星魔人 他 (水木しげる漫画大全集)
水木 しげる
講談社コミッククリエイト
2015-05-01

元々、別の作家が描いていた100ページ以上の貸本漫画の後半40ページを作者が投げ出したので引き継いで完成させたものらしいです。元の作者を引き継いだと言っても、打ち合わせなく引き継いだのでストーリーは完結していますがタイトルとなった赤電話と内容の関連は全くありません。

野球の試合に例えるなら先発投手が打ち込まれて自滅した後、リリーフ投手が救援に立って何とか勝ちを拾った試合みたいなイメージです。先発投手は先に貸本漫画作家としてデビューしていたらしいですが、明らかにリリーフ投手の水木さんの方が技量は上です。

ストーリーは他愛のないものです。鉄人28号とか月光仮面に見られるパターンです。悪の組織と戦う少年探偵と刑事の兄が殺人事件を解決し、悪の組織の世界征服の野望を粉砕するというものです。
前半が謎の殺人事件で始まります。少年探偵が登場しストーリーが始まりますが、中盤、展開が進まなくなり先発投手も作者も続ける気を喪失してしまった感があります。

後半で俄然、絵がきれいになります。前半は、人物の走る姿や格闘シーンがめちゃくちゃです。極端に言うと、右手と右足が一緒に前に、左手と左足がそろって後ろにという。困難で絶対走れないという絵です。アマチュアっぽいタッチが見られます。主人公の顔が右向きと左向きで別人に見えるくらい下手です。

ここから水木さんがリリーフしたなと明らかにわかるページがあります。まあ、けなすばかりでなくそういうことが分かって楽しみながら読んでいるんですけどね。

同時に小林よしのりのゴーマニズム宣言コロナウィルス編を買ってしまいました。また、こっちの感想も書きます。

親友の漫画家への手紙『水木しげるロケットマン』

貸本漫画集(1)ロケットマン他 (水木しげる漫画大全集)
水木 しげる
講談社コミッククリエイト
2013-09-03


水木しげるのデビュー作『ロケットマン』とプレデビュー作『赤電話』についての感想がなかなか打てなくてすみません。

ロケットマンは単なるスーパーマンの亜流かと思ったら、全然そうではなくて、政権を狙う悪の科学者ドライ博士によってロケットで宇宙に飛ばされ、宇宙生物に体を侵食され体がクラゲの怪物のようになってしまった正義の科学者ウェット博士が、ロケットマンに変身した息子とともに悪を駆逐し、やがて体も元通りにする薬を発見するというストーリーです。

ストーリーは昭和31年頃にしては斬新だったと思います。今読んでも、定着した戦記物、妖怪物の水木漫画より面白いと感じました。
絵がうまい。明るい。どのコマもアングルがきれいです。片腕の人がよくこんな上手な絵が描けたものだと感心します。

同時代の漫画はつげさんと横山光輝さんの持っているけど、水木さんの方が数段うまいと思う。これをデビュー作として貸本の世界に入っていくけど、なかなか本が売れず、とても貧乏したようですね。

漫画でも小説でも作家がデビューした頃、もしくはキャリアが浅い頃の作品がベテランになってから発表されたものより、ずっと面白いのはなぜでしょうか?不思議ですね。若い時の方が勢いがあるからかな?それともしめきりとか、編集者との関係が影響するのかな。

小説は一人の作家をデビュー作からずっと通して読んだことがあまりないのですが、例えば三島由紀夫なんかだったら、若い時に発表されたものがいいですね。潮騒、剣、憂国、仮面の告白、青の時代、美徳のよろめき、鏡子の家、宴の後、美しい星などが圧倒的に面白いです。金閣寺以降の長編はボクはどうも苦手です。
豊饒の海なんかは読んで損した感が強い。

脱線してしまいました。水木さんのロケットマンと赤電話の感想について、また書きます。また聞いてください。

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