八年間で四回、全身麻酔を経験した。その第一回目の手術の後、CCUでボクが体験したことだ。痛みで目が覚め、それを看護師に訴えるとドクターが何か言って投薬が始まる。

処置の内容や薬物の種類についてはいちいち説明しない。accountabilityもへったくれもない。

もっとも、痛いと喚いている患者に説明する暇はないだろうけど。

投薬が済んで、痛みが和らぎ眠りに落ちたが、うとうとしたり、目覚めの直後には幻覚症状が出始めた。


まず、壁が崩れ始める。ばらばらと壁材が粉々になって落ちてくる。
ボクは壁際のベッドに寝かされていたわけでもないのに、目の前にそういう光景が映し出される。
そして、壁が全部崩落してしまうと、新たな模様の新しい壁が出現して、また、崩れだす。
何かのゲームのような絵だが、そんなのんきな感じは全くない。
あるのは、ただ、ただ、恐怖のみだ。



次に、仁王様に追いかけられる幻覚。
今、当時の話をすると、若いドクターが、「進撃の巨人か、ガンツのような感じ⁉」とボクに聞くが、進撃の巨人ガンツも知らない。
ペナントレースの巨人の進撃は知っているけど。ガンツ石松なら知ってるけど。(それは、ガッツ石松
東大寺南大門の金剛力士像つまり、阿形様と吽形様の二体の仁王様がすごい怒りの顔をしてボクにのしかかってくるのだ。逃げられない。
現実はベッドに拘束されているからだけど、これもすごい恐怖。



それから、アフリカの大草原の風景が見えてくる。ヌ―の大群がエンドレスにボクに迫って来る。どんどんぶつかって踏みつけられて死にそうに怖い。いや、もう死んだ!思った。現実に痛いのは切開手術した胸と弁を取り換えた心臓だけなんだけど。
それから、ヌーだけじゃなく、ラットも、象も、ガゼールも大群で追いかけてくる。そして踏みつけられる。
大声で叫ぶと目が覚める。




あまり、幻覚が続くので医師に言うと、その若い医師は手術を受けたことも薬物を投与されたこともないので答えられない。分からないと言う。
ただ、医学部で学んだ知識のみ。手術や治療行為で人体実験しているようなものか?




結局、ボクに使われた薬がモルヒネなのか、何なのか、知らずにボクは退院した。あとの二回は何も起こらなかった。けど、今年の夏、がんの手術で腹を切って入院した。今度はICUに入れられて薬を打たれた。
すると、今度は自分の両方の腕から、文字や数字がボロボロと零れ落ちる。痛みもかゆみもない。痛いのは夢でもうつつでもオペした腹だけ。


前の経験があるので、医師にもドクターにもこの話はしなかったが、薬のせいであるのは確かだ。

病院で使ってこれだけ体に幻覚症状が出るのに、素人が違法に使用したら破綻するのは間違いない。