第3話 けものよ牙をむけ!

プロボクサーやプロレスラーには住宅ローンは貸せないことになっている。ボクが審査を受け付けたのは六回戦ボーイだったが彼は若く、エネルギッシュで、まじめだったし、コーラの販売会社の運転手という職業を持っていたからだった。

保証人の依頼をすると彼は婚約者だと言って一人の女子大生を連れてきた。教員志望の彼女は彼と固く将来を誓い合っているのは理解できたが、まだ入籍前なので、法律上は他人だ。

案の定、融資部からクレームがついた。

 

「お前、気は確かか?去年の年収が二百万円。保証人は恋人かなんか知らんが、結婚してない赤の他人。おまけに収入無しの女子大生。債務者が飛んだら、彼女は他人の借金を返済すると思うか‼こんな曖昧な融資ができるか!」

 

ボクは頭に来たが、そのままを二人に伝えた。

二人は辛そうにしていたが、ボクは代替えに提案をした。

 

「こんな銀行の住宅ローンなんかこっちから願い下げだ。代わりに国の住宅資金、住宅金融公庫を使いましょう。固定金利だし、将来、金利高に感じられたら、銀行の住宅ローンに借り換えもできる。住宅金融公庫を一般の銀行の住宅ローンに借り換えはできますから。そん時にゃ、このアホ銀行の審査役も辞めてるし、ご主人も出世されて所得も増えてるでしょうしね。」

 

二人は不思議そうにしていた。自社の住宅ローンを薦めない銀行員。上司をアホよばわりして、その代わりきちんと自分たちの住宅資金の手配を国の住宅資金で手配するおせっかいな銀行員。

顛末から言うと二人は住宅金融公庫の資金で無事マイホームを建て、奥さんは卒業してすぐ教師になった。そして間を置かず入籍した。ボクがそれを知ったのは十年たってからだった。

 

 

実は、十年後、ボクは再びこの支店勤務になり戻って来た。窓口で融資係をしているとあの二人がやって来た。

小学一年生くらいの女の子を連れていた。

 

ご主人はボクシングの世界からは引退していた。コーラ販売会社の営業課長になっていた。女子大生だった奥さんは結婚して姓が変わり、念願かなって教師となり、子供も生まれた。

 

「あの時、銀行に断られたけどあなたが住宅金融公庫の手続きをしてくれてから、すべてがうまくいったような気がします。ありがとうございました。」

 

 

 

そして、二人は住宅金融公庫で十年返済してきて、「ゆとり返済」というシステムの期間が終了するため、今後の返済を窮屈に感じ始めていた。十年前に手続きしてくれたあのおじさんがいたらいいのにねと銀行に相談に来たのだった。

そしたら、本当にあのおじさんがいたというわけだったらしい。

ボクはすぐさま手続きをした。今度は勤続十年の一流会社課長が借入人で勤続十年の公務員の妻が保証人なので審査はあっという間に通った。

 

「六回戦ボーイのプロボクサーに住宅ローンを貸すだあ?おまけに保証人が赤の他人の女子大生だと?お前気は確かか‼」

 

十年前、そう言ってボクを罵倒したあの審査役は数年前に背任横領で懲戒解雇されていた。

はみ出し銀行マンの勤番日記―銀行の中はカリカチュア