大場電気鍍金工業所/やもり つげ義春コレクション (ちくま文庫) [ つげ義春 ]

つげさんは小学校を卒業するとメッキ工場で働きだしたが、その仕事が嫌で嫌で、そこから逃れたい一心で横浜港に行き、日産汽船の1万トン船日啓丸に潜り込んだ。密航を企てた。東回りニューヨーク行の日啓丸が横浜から出港して四時間後、野島岬を通過し太平洋へ出たところで甲板員に見つかった。

余程叱られると覚悟していたが船員はみな優しく親切にしてくれた。ケーキの差入や昼食をごちそうしてくれて風呂にも入らせてくれた。

数時間経過して観音崎付近で海上保安庁の巡視艇に身柄を引き渡された。
巡視艇から日啓丸を振り返ると、甲板に船員がずらりと並び、少年のつげさんに手を振った。
別れの汽笛が脳天を打ちのめすように鳴らされた。


ボクはつげさんの回想記を読んでいて涙が出そうになった。
汽笛が聞こえてくるようだった。
少年のつげさんの心情を知ろうとしても深く複雑で分からない。
同情なんか恐れ多くてできない。
ただ圧倒されて悲しくなった。