うどん



三島由紀夫さんの小説「憂國」を御自身が、制作、監督、脚本、主演、スポンサー、配給、ロケーションなど等一人で大部分を担当して作った「憂國」と言う映画がある。

市ヶ谷事件の後、ご遺族の反対でフィルムは破棄されたか人目につかぬよう処分されたと聞く。
海賊版だけが東南アジアで生き残っていっとき出回ったと言うが真偽不明だ。

本フィルムがないくらいだから、もちろんメイキングフィルムもない。だけど、だれが撮ったか、映画の撮影風景や休憩の様子をスナップ写真でとったものがある。

主人公の割腹シーンのロケは然る能家の舞台を借用したと聞く。三島さんは能楽にも造詣が深かったが映画の撮影に借用することに大いに遠慮があったらしく、ごく短期で強行スケジュールで撮影した。

ボクが見たのは三島さんと共演女優やスタッフがみんなで夜食を食べている一枚の写真だ。
三島さんは主人公の青年将校の軍服、女優は白無垢の衣装のまま、うどんを食べているのである。


この一枚の写真を見ていると、三島由紀夫はよく言われるように才能と意志だけの人ではないように思われて来た。
短編映画を撮るために三島さんが積み重ねた努力や段取りや根回しの数々。

間違いなく三島さんは努力と気遣いの人だ。
撮影は深夜にまで及び、空腹が役者やスタッフの集中力を削ぐ。
簡単に食べることができて大して胃にもたれない食事。

おそらく夜食にうどんを決めたのも三島さんの考えだと思う。

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