知られざる文豪 直木三十五: 病魔・借金・女性に苦しんだ「畸人」

 
ある、冬の日の夕暮れ、映画製作に失敗して都落ちして大阪に帰る直木が菊池を文藝春秋に尋ねた。外套も着ず震える直木に
「天下の直木三十五がそんな恰好で汽車に乗っちゃあいけない!」
菊池は自分のオーバー・コートを直木に無理やり着せた。
 
文藝春秋社を辞して外に出たら雪だ。寒くてポケットに手を入れた直木がポケットの奥で何かに触れた。不審に思い何か紙の束のようなものを引っ張り出してみると無造作に束ねられた一円札の束が出てきた。
 
直木は菊池の情けに感じ入り涙が止まらず呆然と立ち尽くしたと述懐している。