銀行強盗だというので店内はパニックになった。
支店長は真っ先に営業室内の金庫室内に逃げた。
女性行員と交際していることを周りに秘密にしていた男性行員は
彼女の手を引いて金庫室に逃げた。
残りの者はすべて営業室内に取り残された。
支店長は金庫室内から手だけを出して「早く帰ってもらえ!」と叫んだ。
次長が犯人に「なんぼほしいんじゃ?」と尋ねたら「27万円。」と随分中途半端な変な金額を言った。
皆、犯人の顔を見た。口をぽかんと開いて視線は宙を泳いでいる。
薬物中毒か?酔っぱらいか?
皆がいぶかしく思い始めたところへ誰かが通報したのか、警官が飛び込んで来た。
犯人はあっけなく逮捕された。けが人はなし。
犯人の挙動が不審で隙だらけの態度、拳銃が玩具のように見えたこと、
口を開けたまま動きや会話の反応が鈍い等を通報を受けた警察側で
電話の受話器から聞き取り判断した結果、突入逮捕という方針が奏功したのだった。
果たして拳銃はモデルガンで、犯人は銀行支店の近隣の知的障碍者施設に
入居していた18歳の園生であった。
わが身可愛さで部下を守らず真っ先に金庫室に逃げて
部下の次長に犯人との交渉を押し付けて
「早く帰ってもらえ!」と叫んだ支店長は事件後、
ただ一人転勤になった。本部総務部郵便室と言う部下のいないポジションに左遷させられた。
本部に自分が銀行強盗を逮捕したかのように虚偽報告をしていたのが
部下や顧客の口から本部役員ゃ頭取にまで伝わり
全く信用を無くしてしまったのである。