入職後のある日の朝礼で「図書室の保管期限終了の本を持ち帰って良い。」と言われた。興味があったので業務終了後に覗いてみようと思った。「図書室はどこですか?」と総務課で尋ねたら二階の医局の隣と教えられた。

医局の扉を開けたら入ってすぐの所が図書室だった。医局の誰かに告げてから本を見ようと思ったが、どうやって医局にいくのかわからない。図書室の端に簡易テーブルがあり白衣の女性が一人読書していた。姿勢がよく気品があって、なんか宮様のような清らかな威厳を漂わせている。気が引けるが勇気を出して声をかけた。名札を見せて、

 

「あのう、庶務のバイトのとくたですが、不要図書を頂けると聞いて伺ったのですが、、、。」

 

宮様はゆっくりと本を置き顔を上げ、私の方を見て「御本がお入り用なのですね?それでは医局の人に話してみましょうね。」とおっしゃった。声は原節子をゆっくりと静かにしゃべらせたような感じで上品だった。

彼女は図書室の奥の医局に行き若い女性職員に私の来意を告げ、ゆっくりと自席に戻って読書を再開した。

医局女子の説明を受け私は廃棄予定本の中に読みたいジャンルのものを見つけ出し、三冊いただくことにした。一冊目を取ろうとした時、私の白衣のポケットから500ミリリットル入りのスクリューボトルが床に落ちてしまった。ガチャンとものすごい音がした。図書室での騒音はご法度である。

「すみません。大きな音を立てて。」

とっさに詫びて宮様の方を見たが彼女は少しも慌てずゆっくりと本から目線を上げて私を見て、「いいえ。どういたしまして。」と、おっしゃった。

私は大いに恐縮しながら、そそくさと図書室を後にした。

(あの女性は誰だろう?ドクターだろうか?)帰り際に医局の人に尋ねることさえ恐れ多いような気がした。

 

永遠のマドンナ原節子のすべて