銀行業務の中で致命的エラーの一つに口座相違というのがある。

昔、有名な時代劇の大物俳優のギャラが、若い放送作家の口座に振り込まれたことがある。駆け出しの若い貧乏な放送作家としてはテレビ局の名前で大金が自分の口座に送金されてきたのでびっくりしたらしい。百万円単位の金が、送金人を放送局名義として振り込まれてきたのだから驚いて当然である。

事の真相は大物俳優と駆け出し作家が同姓同名で、銀行のミスで大物俳優のギャラが貧乏作家の銀行口座に振り込まれた。銀行員がよく確認せずに誤って送金をしたというものであった。

という風なことをテレビのワイドショーでタモリが笑い話として披露していた。

この後は、誤りに気付いたテレビ局が銀行に『組み戻し』という依頼をかけて、誤送金された資金が正当な権利者(大物俳優)の口座に移し替えられたはずだ。

 

まあ、銀行の「口座相違」「氏名相違」も重大事故であるが、病院の場合の「氏名相違」は銀行以上の重大事故になる可能性がある。

 

 

ある時知人が地元の有名な総合病院で定期健康診断を受けた。健診は被雇用者の義務で労働者の権利だから彼は毎年、その総合病院で受けている。

知人の苗字は『萩原(はぎはら)』と言う。

彼の自宅に健康診断結果が郵便で送付されてきた。

届いた封書の宛名書きを見て唖然とした。そこには『秋原(あきはら)様』と書かれていた。彼は病院に抗議の電話をした。

件(くだん)の病院の事務長氏が菓子箱と封筒を持って飛んで来た。平身低頭、土下座せんばかりに平謝りに大げさに謝罪をする。知人は恐縮して、

「そんな大したことじゃないから、もうよろしいですよ。そんなにご丁寧に言われると困ってしまいます。」

と言った。だが総合病院の事務長氏は真剣な顔をしてこう言った。

「いいえ、これはあってはならない大ミスです。われわれ医療業界で患者様の氏名を間違えるというミスは、投与する薬を間違えると同じくらい大問題なのです。患者様の生命に関わり兼ねない程の大問題です。」

そして、こう言葉を繋いた。

「職員一同深く深く反省し二度とこのような過ちは繰り返しません。ここに封筒は正しく書き直して来ました。」

 

手渡された封書の宛名書きはこう書かれていた。

 

『荻原(おぎはら)様』

 

医療ミスでは?と思ったら読む本