終わったなと思った。まず、妻にどう説明しようかと考えた。
酒、タバコ、コーヒー、博打、女遊び、などなど、そんな不摂生とは全く無縁に生きてきたボクが、なんで、よりによってガンなんだよーと、納得がいかずパニックになった。
病院の会計精算機の前で茫然と立ち尽くした。これから、何をどうすればよいのだ⁉
ボクに生きる意味があるのか!
黒澤明の古い映画「生きる」のブランコのシーンが浮かんで来た。
命みじかし、恋せよ。乙女~
人が見たら、笑うかも知れない。でも、死ぬことに比べたら、人に笑われることくらい、なんでもない。
ボクは死ぬその時までどう生きればよいのだ!
考えよう!見つけよう!納得できる答えを探しだそう。
ボクが死ぬその瞬間まで、答えを探し続けよう。
死ぬその瞬間までボクらしくきちんと生きてやると、思った……。
(上記は、ガンを告知された8月頃に記録したもの。)
(以下は、その四ヶ月後に記したもの。)
と、しおらしく思っているが、大動脈瘤切除手術の経過は順調で、ガンの手術も終わった。ガンの方は初期で、発見が早かった(担当の若いドクターの言を借りるなら、「超ラッキー」。)ために、手術も終わり、経過も良好とのこと。
結局、回り回ってボクは何の進歩もないまま、五つも季節をやり過ごしてしまった。
実は僕は大動脈瘤とがんの宣告を同時に受け、大動脈瘤の除去手術後、一か月後に、がん細胞の除去手術をしたのだった。あれから、五年経過した。