ロビーマン

病院に関する十七の話⑧ロビーの困ったちゃん

ロビーの神様もいればロビーの困ったちゃんもいる。その人は四十歳代の男性で一般職だ。役職がついていないという意味だ。

病院は女性の職員比率の高い職場だが、病院の事務職や受付、ロビーも女性が多い。私の職場で言うと女性30人に対して男性3人の割合である。この四月に私が定時職員として入職したのでうれしいらしい。部下ができたと思っているらしい。まとわりつく。あれこれと不要な情報を提供してくれる。必要なことは言わない。無駄口をたたく。自分の生れや家族構成をとうとうと話す。勤務時間中にだ。彼は受付をしているが余計な動作や無駄話をするので彼の窓口だけ停滞する。

最近では患者さんも感づいて彼の前に来る人は少ない。それでも新規の患者さんが空いている窓口を選んで来る。

ちょっとしたことで待たせるので患者さんがイライラしているのが分かる。私はロビーマンなので待たせている患者さんの元へ行って謝る。

他の受付の人も自分の手が空くと彼のフォローに回る。それで何とか持っている感がある。

 

と、そういうことが見えてきた。三か月経ったので、そろそろ困ったちゃんに気付かせてあげようと思う。ただ、私は定時社員、彼は正社員。私は老人、彼は働き盛り。

彼が傷つかないよう、ショックを受けないよううまくやりたい。余計なお世話と思うが彼がこれ以上困ったちゃんの烙印を押されないように。

それが病院に対する恩返しと思う。国から助成金が出るとは言え、こんな高齢者の私を雇用してくれたのだ。努力しても罰は当たるまい。

病院に関する十七の話「⑦ロビーの神様」



私が病院に入職して最初の三か月はロビーで患者の案内や見守りを命じられた。

 

私の職場の教育係は78歳の女性だが勤務歴51年の超ベテランで考え方は柔軟だし、健康で、行動が素早い。仕事はもちろん、社会的知見も、体力も、人徳も、預金残高(これはウソ)も何一つ私が先輩に勝てるとは思えない。

その先輩が先日一日休暇を取った。

「リクジへ行って車検してくる。」

と言われた。

私は先輩が陸上自衛隊に用事があるのかと思った。

翌日、尋ねたら陸運局事務所へ自家用車を持ち込んで、軽乗用車の車検を自身で済ませて来たと言う。すごいですねと感心したら自分でやったら7千円かそこらですむと軽く言う。

自動車関係の人に手順を教えてもらい、陸運局事務所で整備不良を指摘されたら、陸運局事務所の隣が民間の修理工場だそうで、指摘箇所だけは専門家に直してもらい、車検を通すと言う。

過去に何回かやっているらしい。

 

スマホを持ってないので尋ねたら左腕を指さした。スマートウォッチとやらを持っている。使いこなしているようですごいなあと感心する。

 

ロビーでは流れるように患者を誘導し、毎日よく患者から声がかかる。困っている人がいるとフレンドリーに声をかけたり手助けする。記憶力がよく一日に何十人もの患者を名前で呼ぶ。患者だけでなく、ドクターやナース、事務員にも受けがよく信頼されている。

先輩は78歳で51年間勤務している。私が先輩のレベルに達するまで、今72歳だから、あと51年勤務しても123歳までかかる。とんでもない。私は先輩を密かに『ロビーの神様』と呼んでリスペクトしている。

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